課長の瞳で凍死します 〜Long Version〜

「まあ、忘れるように努力するよ。
 僕にも今は真湖りんが居ることだし」
と言ってくる。

 いや、居ませんよ、と見上げていると、羽村は少し笑って言った。

「少し冷えたね、入ろうか」

 はい、と上着をかけてくれる。
 ふわりと羽村のいい香りがした。

「あ、大丈夫ですよ。
 でも、羽村さんていつもいい匂いがしますよね。

 なんの香りなんですか? これ」
と訊くと、

「秘密」
と言ったあとで、羽村は笑う。

「でも、僕の匂いをいい匂いって言うなんて、沢田さんは、あれだけされても、僕のことをあんまり嫌ってないってことだね」

「え?」

「いや、女って、そいつが嫌いだったら、どんな匂いでも嫌なもんじゃない?」

「そうですかね。
 いい匂いはいい匂いですよ」
と言うと、

「まあ、沢田さんは、思考が男寄りだから、わからないけどね」

 私のことを好きだとか言うわりには、失礼なやつめ、と思った。