課長の瞳で凍死します 〜Long Version〜

「いや、ちょっと……」
と珍しく言いよどんでいたので、なんとなくその相手が想像ついた。

 雅喜の母、響子だろう。

 雅喜は困ったように顔に手をやっていたが、根負けしたらしい。

 こちらに受話器を向け、
「代われ、沢田」
と言ってきた。

 沢田って言ってるの、向こうに聞こえてますよ、と思ったが、まあ、別にもういい気もしていた。

 以前は、つきあっているというのがまるきり嘘だったから、なにか取り繕わなきゃと思っていたのだが、今はそうではないから。

「はい、もしもし」
と出ると、

『真湖さん、久しぶり。
 また一緒に吞みたいわねー』
と言う機嫌のいい声が聞こえてきた。

「はい、ぜひ」
と笑って言うと、雅喜がまたなんの打ち合わせだ、という顔でこちらを窺っている。

『そうだわ、真湖さん。
 婚約するんですって?

 ……私には、なんの知らせもなかったけど』

 笑っている声の中に少しの刺を感じて、慌てて真湖は謝った。