課長の瞳で凍死します 〜Long Version〜

 平安時代とか、手紙にも香を焚きしめてたっていうけど。

 ほんと匂いってその人を表すっていうか。

 羽村さんは羽村さんで、彼特有のいい匂いがするし。

 好きな人の匂いは嗅ぐだけで、なんだか緊張してしまう。

 ……って、やっぱり、課長のこと好きなのかな、私。

 礼子たちが訊いたら、今更、なに言ってんの、と言い出しそうなことを思った。

 私も課長も慎重すぎるのかもしれない。

 恋愛というものを大袈裟に考えすぎているのかも。

 まあ、そんなだから、今まで誰とも付き合わずに来てしまったのだろうが。

「此処に泊まりたいのか?」
とタブレットを見て、雅喜が訊いてくる。

「あ、いえ。
 昨日、いいなと思ったのは別の宿で」
と言いかけたとき、家の電話が鳴った。

 はい、と雅喜が出る。

 が、すぐに顔をしかめた。

「何処から聞いたんですか、それ」
と言っている。

「え?

 そ、それは……沢田。
 真湖に訊いてみないと」
とたどだとしく言うのが聞こえてきた。