真湖は帰りに近くの書店に寄っていた。
新刊を買いに行ったのだが、ついでに旅行雑誌のコーナーに行く。
もう一度、あの旅館の記事など見て、うっとりしようと思ったのだ。
旅行は行ってからも楽しいが、行くまでも楽しい。
すると、そこに何処かで見た後ろ姿があった。
雑誌を見ている。
そっと側に行き、目当ての雑誌を開いてみたりしたのだが、隣りの男はまるで気づかない。
どうなんだろうな、この人、と思いながら、真横からその顔を眺めてみた。
「課長」
と話しかけると、雅喜は、極普通に、
「なんだ」
と返してきた。
「気づいてたんじゃないですか。
なに見てるんですか?」
と言いながら、手許を覗き込んでみた。
もちろん、あの旅館のページだった。
「実は結構楽しみにしてますか?
この宿、泊まるの」
と笑って訊いたが、雅喜は、
「迷わないように場所を確認してただけだ」
と言って、ページを閉じてしまう。



