『いや、無理です、課長』
と言う真湖の言葉を聞いた雅喜は、まあ、そうだろうな、と思っていた。
真湖はあの飲み会の夜の前も後も自分を避けている。
前はたぶん、怖くて。
後はたぶん、気まずくて。
だから、断ってくるだろうと思っていた。
どうするかな。
行ってみたいのは本当だし、此処はキャンセルして、別の宿を取るか。
それか、このまま、此処に一人で泊まるか、と算段していた。
どちらにせよ、自分のスマホからパスワードも入れて頼んでいるということは、最終的には自分が決断したのだろう。
キャンセル料も真湖に払ってもらうつもりはなかった。
だから、
『ボーナス一括でお願いしますっ』
という真湖の言葉が返ってきたとき、幻聴かと思った。
大丈夫か?
こいつ、また酔ってないか? と思いながらも、
「……わかった」
と言っていた。
細かく追求して、もめるのも嫌だ。
友人たちは、絵には興味ないし。
真湖だったら、旅行に連れて行っても、ごちゃごちゃうるさいこともないだろうと思ったのだ。



