それでは、と頭を下げて去っていく真湖を見ながら、雅喜は背広のポケットに入れていたものを軽く握った。 あの杯だ。 渡しそびれたな。 実はさっきから気づいていたのだが、出さないでいたのだ。 まあいいか。 ……まあいいか、と心の中で繰り返しながら、歩き出す。 もう一度、振り返ったが、真湖はもうあっさり電車に乗って消えていた。