「ねーねーねーねー」
陽気な声がして、廊下で出くわした清水礼子(れいこ)が話しかけてきた。
「ああ、礼ちゃん、ごめん。
コピー代わりに取ってくれたんだって?」
そんなことは別にいいのよっ、と礼子はぐいと真湖の腕を引くと顔を近づけ言った。
「あんた、課長となんかあったの?」
「は? なんで?」
と言いながら、ぎくりとしていた。
「だってさー。
課長が、あんたの様子見に行くし、私にあんたの代わりにコピー取っておけとか、わざわざ言ってくるし。
あの人が部下に気を遣うとかないから、あれってどうなのよーって社内騒然なんだけどっ」
待て待て待て、と思った。
この大きな会社がそんなことで騒然となるわけないだろうが。
「せいぜいこのフロアでしょ。
まったく、礼ちゃんはオーバーなんだからー」
と言うと、
「それくらいの珍事ってことよ」
と言ってくる。
瞳のくるっとした可愛い友人の顔を見つめ、ちょっと相談してみたくはあるが、でも、こいつ、口が軽いからなーと思っていた。
「……なにもなかったよ」
「なにっ、その間!」



