教室に戻ると、俺の幻のメロンパンは一葉がペロリと平らげた後だった。



「あっ、ごっめーん☆見てたら食べたくなっちゃってー…」なんて戻って来た俺に気づいた一葉は言ってくるが、今の俺には全然頭に入ってこなかった。



「……なぁ、一葉。理事長の孫の西園寺姫乃って知ってるか?」


「えっ、西園寺さん?」


メロンパンについて触れない俺に驚いているのか、俺が西園寺姫乃について聞くことに驚いているのか、一葉は目をパチクリとさせた。



「…め、珍しいね…、律が女の子のこと気にするなんて……。でも、西園寺ならしょうがないか…」


最後の方がボソボソと聞き取れず、首を傾げていれば、一葉は「なっ、なんでもない!」と言い、話を続ける。


「えっと、西園寺さんって"人形みたい"に可愛いって有名な子だよね。E組だし、棟が違うから私も見たことはないけどさ…」


「ふーん。なんか知んねーけど、そんな顔整った奴なんだ」


「えっ、やっぱ律、西園寺さんに興味あるの…?」


「は?ちげーよ!そうじゃなくて……」



よくよく耳を澄まして噂を聞けば、西園寺姫乃のことをみんながみんな、"人形みたい"と言う。




俺は、その本当の意味をこの時はまだ知らずにいた。