「「「は…?」」」
ぽかーんとする俺達をよそに、理事長は窓辺にある花瓶の花にそっと触れながら口を開く。
「私の孫はね、もう何年も前から笑わなくなってしまったの…。私はね、あの子が心の底から笑った顔を、もう一度見たいのよ」
しんみりとした雰囲気で理事長は言うが、よくよく考えた結果、俺はラッキーだと思った。
ぶっちゃけ、留年とかどうでもいいって思ったけど、うちは母ちゃんがこえーし。
笑わせればいいって、めっちゃ簡単じゃね?!
それで進級できるとか最高じゃね?!
楽勝かよ!
「やります!」と声を上げようとしたところで、「お言葉ですが、理事長」と白鳥が眼鏡をくいっと上げた。
「理事長のお孫さんは、感情表現が乏しいだけなのでは?この世に笑わない人間などいません」
だーーー!!こいつ、何余計なこと言ってんだよ!!
てか、だから無駄にキリッとさせんのやめろ!!
………んまぁ、確かに、笑わない人間なんて俺も見たことねーけど。
「え〜そんなんどっちでも良くない〜?笑わせれば進級できるとか楽そうだし〜。てかさ、それより孫って男の子?女の子っ?!」
目を爛々と輝かせて聞く鳴海に、理事長は「女の子よ」と答えた。
「名前は西園寺姫乃(さいおんじひめの)。ちなみに、あの子もここの生徒で、あなた達と同じ1年生だけど、その反応じゃ、まだ会ったことはないみたいね。
……あの子を笑わせるのはそう簡単じゃない。
あの子に会えば…、私の言っていることはすぐに分かると思うわ」
その後、理事長はこの進級をかけたチャンスの詳しい条件を述べていった。
それは至ってシンプルで、
まず、その理事長の孫である西園寺姫乃とかいう女を笑わせること。あ。もちろん、作り笑いは無し。
誰が笑わせたとかのジャッチが難しいから、基本的には全員で協力して笑わせること。
期限は2年に進級する時まで。
そして、1週間後の今日と同じ時間、理事長室で西園寺姫乃との対面を行うこと。
「その日、来た者だけがこの条件を呑むことを許可します」



