♢♢♢律side




昼休みに突如となく鳴り響く放送に、俺は授業が終わると同時に教室を飛び出して死ぬ気でゲットした"幻のメロンパン"にかぶりつくのをやめた。



俺、なんかしたっけ………


最近は別に喧嘩なんかしてねぇし、補導だってされてないはず……


よーし!!さっきのは聞き間違いだ!!
俺は早急にパンを食う!!




購買のおばちゃんの手作りのこのメロンパンは外はサクサクで中はクリームがぎっしり入っている最高の一品。

1日限定10のそれがゲットできた今日はかなりついている!!


俺はこのメロンパンの為にこのクソみてーな学校に来てるようなもんだ。



ニヤけそうになる顔を抑えながら、もう一度メロンパンにかぶりつこうとしたところで、背後からスパーン!と何かで頭を叩かれた。



「ってぇ!!」

「何呑気にパン食べようとしてんのよ!!」




頭を撫でながら、後ろを振り返ると、そこにいたのは幼なじみの田口一葉(たぐちかずは)。


ショートカットでスカートの下に短パンを履いているほど女子力のない一葉の手には丸めた教科書が握られていて、


こいつ……あれで頭殴りやがったな。


大抵の女子が睨めば怯えて去っていくのに、一葉は腕を組んだまま、逆に俺を睨みつけてくる。




「律!!アンタ、今呼ばれてたでしょ!早く行ってきなさいよ!てか、理事長室に呼び出されるって何した訳?!」


「はぁ?俺なんもしてねーし。てか、頭いてーし!英単語の1つ飛んだわ!」


「元々その頭に入ってる英単語なんて1つもないくせに何言ってんのよ!!」


「っせーな、このゴリラ!!俺のメロンパンタイムを邪魔すんじゃねぇ!!」


「なっ、なんですって〜?!」



顔を真っ赤にさせたと思った一葉は少しして黙った後、俺の手にあるメロンパンをヒョイっと奪い取った。



「あっ、てめ、」

「理事長室!」

「…あ?」

「理事長室ちゃんと行ってくるなら、食べないでおいてあげる」


はぁ?!ふざけんな!!と声を上げる前に、一葉は今にでも食べそうな勢いで、「あ〜ん」と口を開く。


あぁ…!!俺のメロンパン!!


「っち!…行く!行くから、食うなよ?!食うんじゃねーぞ?!」



そして俺はメロンパンを人質に、教室を飛び出した。