お姫様のメランコリー




「笑いたくなくなる気持ちも、感情を全てシャットダウンしたくなる気持ちも、少しだけ分かる気がするんだ……」

少し俯きながら白鳥がボソリと呟いた。



……それは俺も何となく分かる。

部活を辞めた時、俺はこの世の終わりだというくらい塞ぎ込んだ。
人生最大の絶望の沼にどっぷり落ちたみたいに、もがいてももがいても這い上がれなくって、俺はやっと周り人に支えられて抜け出すことができた。


鳴海も共感する何かがあるのか、普段のチャラついた雰囲気がなくなったまま、俯いている。


うわーー…

俺ら辛気くせぇーー…





『さぁ…?私には"楽しい"という気持ちが分かりませんから。』


アイツ、悲しいことから逃げたくて、楽しいのも捨てちまったんじゃねーの?

アイツの人生、このままでいいのか?

逃げて、逃げて、逃げまくって、全てに諦めて、



分からないと言った感情を、

誰も教えてやらなくて、それでいいのか……?



……………………


それぞれの教室に差し掛かった時、




「……ぅっし!!決めた!!」



俺がそう声を張り上げれば、白鳥と鳴海はハッとしたように顔を上げて、俺を見た。



「俺、改めてアイツのこと笑わすわ!!」


もちろん、留年を免れる為ってのもあるけど、


アイツのあの瞳に光を宿してあげたくなった。

……きっと見たことのない綺麗なビー玉のような輝く瞳になるに違いないから。



「……あぁ、そうだな」

「…頑張りますか〜!」


白鳥も鳴海も俺に続いてくれた。


おお!!なんだこれ!なんか胸熱じゃね?!

そうだよな、俺達チームになったんだし!
今後は協力し合うんだし!


「よし!俺達名前で呼び合おうぜ!」


俺がそう言うと、白鳥…政宗が露骨に嫌な顔をしやがった。


「別にそこまでする必要はー…」

「いーじゃんいーじゃん!政宗く〜ん。律くん、熱血スイッチ入っちゃったから諦めな〜」


鳴海…じゃなくて恭弥が政宗の肩を抱き、俺もそれに加わる。


「っおい!やめろ!こんな廊下で!!」

政宗が慌てるが無視無視。

「こんなとこで円陣とかめっちゃダサ〜」

恭弥の言う通り、3人でちっぽけな円陣はダサかった。

それに廊下だし、何事かと他の生徒達が俺達を見るけど、それでも俺は声を張り上げた。



「姫乃を笑わせるぞーーー!!」






その後できた俺達の連絡先のグループは、

【笑わせ隊】

恭弥は「ネーミングセンスな〜!!」と笑い、政宗は早速非表示に設定してやがった。





………ここにお姫様が入るのはそう遠くないと、


俺は思いたい。