西園寺の瞳が、ほんの一瞬だけ揺らいで、何も映っていないそこに、俺が映ったような気がした。
けど、それは俺の見間違いかもしれない。
「お婆さまはまだ諦めてなかったのですね…」独り言のように呟きながら俯いた西園寺。
そのまま西園寺は深々と俺達3人に向かって頭を下げてきた。
「このような茶番に付き合わせて、申し訳ありません。」
「えっ、ちょ、いや、別に誰も謝れなんて言ってねーからっ!!」
「そーだよ、姫ちゃん!顔上げて!」
焦る俺に、鳴海も続けて言う。
「そうだ。謝る必要はない。僕達は見返りを貰う予定だからな」
白鳥がそう言えば、西園寺はやっと頭を上げた。
確かに白鳥の言うことは間違っていない。
俺達は西園寺を笑わせれば、留年が免れる。
そして、西園寺は無表情のまま言う。
「その見返りがなんなのか分かりませんが、終わらせたかったら言って下さい。
笑えと言うなら、笑います。怒れと言うなら、怒ります。泣けと言うなら、泣きます。
……あなた達が望むように。」
…っ、
なんだ……それ。
馬鹿な俺だって分かるぞ……?
それじゃあ、意味がないって。
誰かに言われて作る表情なんて、
偽物でしかないって。
なのに、何で………
「なぁ、姫乃さん、」
なんとも言えない空気の中、口を開いたのは白鳥だった。
「君は生きてて、楽しいか…?」
白鳥のその問いかけに、西園寺は首を傾げた。
「さぁ…?私には"楽しい"という感情が分かりませんから。」



