「いやいや……は?」

「栄田。いまなんつったの?」


栄田くんに注目したまま固まっていた生徒たちが、ゆっくりと時間を取り戻していく。

教室にざわめきが戻り、一瞬ピンと張り詰めていた空気が、だらりと弛緩するのがわかった。


けれど、わたしはみんなのようには動けなかった。

箸を持つ手はそのままに、同じように動かない栄田くんを見つめることしかできない。


心臓がドクドクと、嫌なはやさで鼓動する。

身体の奥から響くそれは、大雨で増水した川の流れのように怖ろしく感じた。



「ちょっと、千奈。大丈夫?」


一緒にお昼ごはんを食べていた吉田茅乃が、心配そうに顔をのぞきこんできた。

錆びたように固まった首を、無理やりと茅乃の方に動かす。

ギギギと音が聴こえてきそうだった。