いったいどうしたんだろう。

皆に注目される中、固い顔で栄田くんが口を開く。



「……た」

「は? 何だって?」

「……って、聞いた」

「何言ってんだよ栄田。聞こえねーよ」


数人が、彼に耳を向けるようにしてそばに寄っていく。

本当にどうしちゃったんだろう。

栄田くんはクラスの誰より大きな声でしゃべり、先生にもよく「授業中の私語くらい小さい声でできないのか」と呆れられているくらいなのに。


集まってきた友人たちを前に、栄田くんは唇を噛むと、天井を見上げ叫んだ。



「矢野が転校するって聞いたっつったんだよ!」


やけくそ気味に放たれた言葉に、教室がしんと静まり返る。

窓の向こうから、校庭で遊ぶ生徒の笑い声がやけに大きく聞こえてきた。