まさか中学の時はお互い面識もなかったのに、わたしの描いた絵のタイトルまで覚えているなんて。
まじまじと矢野くんを見ると、彼は照れを誤魔化すように肩をすくめる。
「理想だと思ったから」
「理想って、なんの?」
「俺の。理想の放課後だなって。あの絵はさ、廊下側から見た教室が描かれてたじゃん。教室に残ってバカ笑いしてる奴らとか、内緒話してる奴らとか。それから窓の向こうにはいい顔で小突き合ってる運動部の奴らもいて、その全員が言いたいことを言い合って、ムリなんかひとつもしてない自然体で、すげぇいいと思ったんだよ。俺もこの中にいたいって思った」
言いたいことを言う自然体。
それはまさに矢野くんのことを言うんじゃないだろうか。
自分の意見ひとつ言うのに、いつも緊張して不自然な言動をしてしまうわたしとは真逆。
常に自然体。
そんな矢野くんがわたしの絵の中にいたい、と言うのはとても不思議な感じがした。


