体育で個人記録をとった時、いちばん足が速かったのが矢野くんだったから。
アンカーにバトンが渡った時、うちのクラスは5位だったけど、矢野くんがごぼう抜きをして2位にまで順位を上げたのだ。
「つっても、やっぱ専門の奴には勝てなかったけどな」
「でも2位ってすごいよね。最後ギリギリ逃げ切ったのも、3年生の陸上部エースの人なんでしょう? やっぱりすごいよ」
速く走ろうとすると足がもつれて転んでしまうわたしから見れば、矢野くんはまるで初夏に吹く一陣の風のようだった。
「ほんと、すごかった……」
「……そんなすごいすごい言うなよ」
「あ。ご、ごめんね」
怒ったように言われてしゅんとする。
あの時の感動を思い出して、思わず夢見心地で言ってしまったけど、矢野くんにとっては悔しい思い出なんだろう。


