「ご、ごめん。なんとなく聞いただけだから、答えなくても……」
オロオロするわたしに、矢野くんは小さく笑って肩をすくめた。
「別に隠してることでもねぇよ。面倒くさくなったからやめただけ」
「ケガとかじゃなく?」
「身体丈夫だから、小学校からやってたけどケガはしたことねぇよ。中学入って、上下関係にうるさくなって、そういうのが煩わしかったからやめたんだ」
「そ、そうなんだ……」
矢野くんらしいと思った。
きっと好きなものを手放したくなるくらい、理不尽なことがあったんだろう。
「あっ。そうか。ずっとサッカーをしてたから足が速いんだね! 矢野くん、リレーのアンカーで大活躍だったもんね」
うちのクラスにも陸上部の部員はいるけれど、彼はやり投げの選手なので足が速いタイプではなかった。
それでアンカーを誰にするか話し合いがあり、白羽の矢が立ったのが矢野くんだった。


