日常の体温、特別の鼓動



誰もいないのをいいことにソファに寝転んで、朗読劇の台本に目を通す。

演目は恋愛物。実生活が長らく恋愛と無縁だったせいで、ぼくは主役のくせに、セリフ1つにもおっかなびっくりだ。


ぼくの声質は細めの高めで柔らかくて、おかげで「声が若い」と言われる。

普段は少年役ばっかりで、等身大のはずの30代の役は初めてだ。


しかも、言ったことのないようなセリフばかりで参る。

愛だなんて、どう言えば嘘くさくならずに済むんだ?


胸にありったけの感情を集める。

高鳴る鼓動のリズムに耳を澄ます。

彼女を想う気持ちと向き合う。

ぼくの役柄がヒロインにぶつける気持ちと、今の現実の自分の感情とを重ねてみる。


でも、まだ足りないんじゃないかと思う。

自分の本気がどこにあるのか、見えない。

愛という言葉、恋という響きが、ぼくの声になじまない。