日常の体温、特別の鼓動



ぼくは、名残惜しく感じながら、彼女の髪を放した。

彼女の手のひらからマカロンをつまみ上げる。


「はい、口を開けて」


小柄な彼女と目を合わせたくて、ぼくは背中をかがめる。

彼女は視線をさまよわせながら、そっと口を開けた。


みずみずしげなピンク色の彼女の唇が、乾いたピンク色のマカロンに触れた。

柔らかそうな舌が、マカロンを口の中に運ぶ。


「甘い」


まつげを伏せて、彼女がささやいた。

ありがと、と、かすれそうな声が続く。


「どういたしまして」

「……わたしも、持ってきてます……」

「え?」

「車椅子の、背中のハンドル」


言われてみれば、そこに小さな包みがぶら下がっている。