日常の体温、特別の鼓動



彼女の体は最近、軽くなった。

数値的な体重の話じゃない。

軽く抱えられるようになった、という体感の話だ。

彼女はようやく、移乗介助をするぼくに体を預けてくれるようになった。

おかげで軽く感じる。


彼女の両脚は麻痺して、拘縮《こうしゅく》もある。

腕や上半身も完全には自由じゃないけれど、奇跡的に、発声に関わる部分にはまったく麻痺がない。


全身の筋肉が常に緊張している彼女は、人より疲れやすい。

でも、彼女は意地っ張りだ。


「ぼくに寄りかかっていいよ」

「イヤです」


じゃあ勝手に抱き寄せる。

なんてことは、ぼくにはできない。


「疲れすぎないうちに、ちゃんと言うようにね」


礼儀正しい距離。

このへんの抑制が利くのは、年の功かな。

これだけ年齢差があると、何かにつけてブレーキが掛かる。