日常の体温、特別の鼓動



と、まじめに演技について考えてたはずなんだけど、いつの間にか、うとうとしていたらしい。


「寝てるんですか?」


凛と澄んだ声が思いがけず近くから聞こえて、ぼくは慌てて起き上がった。

メガネの角度を直しつつ、笑顔をつくる。


「ごめん、寝てた。今、来たところ?」


彼女が小さくうなずいた。

肩より少し長い髪が、ふわっと揺れる。


「疲れてるなら、しばらく寝てていいですよ。まだ誰も来ませんし」

「いや、もう眠気が覚めたよ。きみに渡したいものがあってさ」


彼女は怪訝《けげん》そうに眉をひそめた。


「バレンタインだから、とでも言うんですか?」

「人気声優さんの前でそれを言っちゃまずいかな?」

「別に。わたしは顔出ししてませんし」