さよならから始まる

私達は見つめあったまま、動きを止めていた。


あなたはあの日と変わらない、どこまでもまっすぐな目をしていた。


だからこそ、どうにも視線を動かせなかった。


ピントがあなたに合っているから、忙しなく移動する人も、売店で働くおばちゃんも、動き出した電車も、あなた以外の何もかもが、ぼやけて見える。


「おい、どうしたんだよ」


後ろから現れた友達に肩を叩かれたあなたはひどく驚いた。


「あ…いや、何でもない」


そしてあなたは私から視線を移して友達と歩き出した。


私は遠ざかるその後ろ姿をずっと見ていた。


…あなたが好きだからって見ていたって、何かが変わるわけじゃない。


例えこうして見つめ合うことがあったとしても、過去には戻れない。


絶対、戻れないんだ。


そんなこと、とうの昔に分かっていたことなのに、今は痛いくらいに私を苦しめる。


うまく呼吸ができなくなるくらいに、悲しい。