「達者でね。あげは」
女将のこの声は、珠喜が此処を出ていった時と同じだ。
あの日、あげはは見送りもせず、一人泣いていた。
まだ珠喜の香りが残る、部屋の中で。
泣けば珠喜が戻って来るわけではないけれど、幼い彼女には、そんなことは関係なかった。
しかしあげはには、涙を流してくれる人さえ居ない。
「……お世話になりました」
あげはは最後に微笑んだ。
まだあどけなさの残る、十七歳のその少女が微笑む姿は、まさに「揚羽蝶」のように優雅に見えた。
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