「可愛いよ、珠喜」 「──からかわないで、くださいな……っ!」 貞臣といると、いつものような余裕がなくなる。 珠喜は着物の乱れを直しながら、目前で優しげな微笑みをたたえる男に抗議した。 「珠喜姐さま、次の方がお待ちです」 新造の“あげは”が、別れの刻限を告げに来る。 珠喜は返事をし、貞臣の方へ向き直った。 「──また、会いにいらして下さいますか?」 貞臣は優しくうなずいた。 「勿論だよ、珠喜に会うためなら」