籠姫奇譚


「私は、廓から遙さんに引き取られた身。……その時に遙さんがくれた名が蝶子。その前は“あげは”と呼ばれていました」


「廓から、か。僕の知り合いにも一人、そういう人がいるよ。……僕の、初恋の人なんだけど」


「初恋の……?」


「うん。でも、もう結婚してるんだ」


瑪瑙は苦笑して、頬杖をついた。

そんな些細な仕草まで、綺麗で。


「僕の瑪瑙という名には『夢』という意味があってね。イスパニア人の祖父がつけた名なんだ」


碧色の彼の瞳は、まるで宝石のようだ。きらきらと輝いて、人を魅了する。

夢の石と云われる、瑪瑙。

それはまさに、彼の人柄を表した名前だった。