瑪瑙は立ち話もなんだから、と言うと自宅に案内してくれた。
立派な屋敷とは違うが、十分広い、落ち着いた家だった。
「ちょっと散らかってるけど」
瑪瑙は照れくさそうに髪をかきあげる。
作家らしく、部屋には何枚も原稿が散乱していた。
いかにも彼らしい、といったところか。
瑪瑙は手際よく緑茶を淹れると、蝶子に出した。
そういえば前に、遙が瑪瑙は日本茶しか飲まない、と言っていた。
……本当にその通りのようだ。
「この前、君に名を尋ねたら蝶子と呼ばれている、って言ったよね?」
「……はい。そう、呼ばれています」
コク、と頷き、蝶子は瑪瑙を見詰めた。
「もしかして、蝶子は本当の名ではないのかい?」



