籠姫奇譚


「──あれ?居ないのか?」


遙の反応が無いので、瑪瑙は首を傾げ、持っていた資料を机に置くと出ていった。


(遙さんが──居ない?)


もし、そうなら。
瑪瑙と話がしたい。

蝶子は自室から出ると、仕事部屋の戸を叩いた。


「遙さん、遙さん」


名を呼んでみるが、返事はなく。


「──居ない」


瑪瑙と話す機会なら、今しかないのだ。

このまま黙って出掛けよう。夕刻までに戻れば、誰にも気付かれない。

そう思うと、蝶子の足は外へと向かっていた。