恋蛍~君の見ている風景~【恋蛍 side story】

「そうかな」


「そうですよ! 平気なんですか? 寂しくないの?」


寂しいとは思わなかった。


強がっているわけでも我慢しているわけでもなくて。


本当に寂しくはなかった。


「早く帰って来るといいですね、榎本さん」


「そのうち帰って来るよ。忘れた頃にふらっと」


潤一はそういう人だから。


突然いなくなっても、待っていればいずれ必ず帰って来る人だったから。


平気だった。


待っていれば、必ず、帰って来てくれたから。


待っていれば。


春にどこかへ行って夏の終わりに帰って来て、秋の訪れと共にまたどこかへふらっと行った潤一が帰国したのは、冬になってからだった。


彼のリクエスト通りに肉じゃがを作って、ふたりで夕飯をしていた時だった。


その瞬間は、突然、やってきた。


「あーこれこれ。この味だー」


やっとありつけた、そう言って潤一はじゃがいもを大きく頬張った。


「やっぱうまい」


笑み崩れながらもくもくと咀嚼する潤一を見て、あたしは小さく笑った。


「旅先にはもっと美味しい食べ物あるんじゃないの?」


「まあね。でも僕は」


潤一はまるでネコのように背中を丸めて前のめりになりながら、ガツガツと肉じゃがを頬張る。


そして、お味噌汁を啜って続けた。


「陽妃が作ったちょっとしょっぱいくらいの、この肉じゃがが食べたかったんだ」