恋蛍~君の見ている風景~【恋蛍 side story】

アトリエから外に灯りがこぼれていたのだ。


もしかして。


ドキドキしながらドアノブを右に回した。


数センチ開いたドアの先には、ここ2年ほど目にしていなかったクロックスのサンダルがあった。


ゆっくり視線を上げて、その後ろ姿を確認した瞬間、あたしをとりまく世界はひだまりのような暖色の霧に包まれた。


どうやら、今、帰って来たらしい。


「あーどっこい」


彼は背負っていた大きな荷物を下ろし、ソファにどっさり投げ出しながら首からカメラを外してテーブルに置いた。


「……潤一」


あたしの声に、彼の背中が反応を示した。


ひと呼吸の間があったあと、


「その美声はもしや」


彼はわざともったいぶるように時間をかけて振り向いた。


「おー陽妃。元気そうだなあ」


あっけらーと笑って「やあ」と右手を挙げた、潤一。


まさに2年振りの再会だった。


ドアの前に突っ立ったまま無反応のあたしを見て「あれ?」と首を傾げた潤一が近寄って来る。


なんでこの人は、何をするにも突然なんだろう。


「久し振りの再会なのですが。えーまず、今の心境をどうぞ」


潤一は冗談めかした口調で、報道記者のようにあたしの口元に幻影のマイクを突き付け、インタビューの真似を始めた。