恋蛍~君の見ている風景~【恋蛍 side story】

フェリーが船着き場へ到着して、あたしはどの乗客よりもはやく下船した。
でも、あまりの人だかりにで海斗とおばあがどこにいるか分からない。

きょろきょろとあたりを見渡しながらうろうろしていると、


「陽妃ぃー」

か細い、しわしわの、不愛想な、でも、聞き覚えのある懐かしい声に背中を叩かれて、あたしは反射的に振り向いた。

そこに立っていたのは「もう、言うこときかんもんでさあ、このオバァよー」と呆れ顔の海斗と、海斗にしっかりと手綱を握るようにつかまれてちょこんと立っている小さなおばあだった。


「おばあ!」


勝手に涙がぽろぽろとあふれてこぼれて止まらない。

そんなあたしを見て、

「あっ! オバァよー! 待たんかあ!」

と引き止める海斗の手をぶんっと振り払い、おばあはどこかおぼつかない足取りでこちらへ向かって走ってくる。

「陽妃ぃー! はるひぃー!」

「だめ! おばあ! 走ったら心臓に負担が」

それでもおばあは駆け寄って来て、あたしの胸に飛び込んできた。

「ヤー! なんなのさぁ! くぬ、サンサナーがぁ!」


とおばあは小さな体と今にもぽきりと折れてしまいそうな細い腕で、あたしをぎゅううっと抱きしめた。

「でーじ美らさんになりよってぇ、陽妃ぃ……。オバァさあ、会いたかったよぉ、陽妃にずっと会いたかったのさぁ」


「おばあ、ごめんねっ……おばあ」


あたしもおばあの小さな体を力いっぱい抱きしめた。
こんなに……子供みたいにたよりない小さな体だっけ?
ああ……それだけ、あれから月日が流れてしまったんだ。

12年も。

「おばあっ」

「12年やんど。陽妃ぃ。12年も本当に帰ぇらんばかがおるかぁ」

「ごめんね」

泣きじゃくるあたしとおばあの頭を撫でなければならなくて両手がふさがっている海斗は大忙しだ。