恋蛍~君の見ている風景~【恋蛍 side story】

海斗の腰のあたりまでほどの背の小ささで、腰が曲がって背中も丸くて、涼しげな麻生地のワンピース。

12年前はひっつめてお団子にしていた白髪の髪の毛は、ぱっつりとかわいらしいショートヘアになって。

でも、相変わらずね。

笑いもしなければ、仏頂面。

「もうっ……」


目頭がぐうっと熱くなって、涙で景色も人も霞んでみえてしまう。
涙をぐっと我慢して、ぐいっと手の甲でぬぐい、彼女に向って大きく手を振ってみる。


彼女はやっぱりむっつりと仏頂面で、でも、左手をちょんと胸元まで挙げてひらひらと振り返してきた。
ほんっっっとうに、素直じゃないんだから。

ああ、もう。

今すぐここから飛び降りて、そこに行けたらどんなにいいだろうなんて思ってしまう。
もう、すぐそこにいるのに。
もどかしくてたまらない。


相変わらずの島草履。
真っ白な髪の毛は薄くなり、12年の間に驚くほど小さく弱くなってしまったその体。

早く抱きしめたくてしょうがない。

甲板の手すりにしがみついて、あたしは胸いっぱいに潮風を吸い込んで叫んだ。

「お――」

でも、あたしの声と涙は、タイミング悪く高らかに鳴り響いた汽笛で見事にかき消されてしまった。

もう一度、叫んでみる。


「おばあぁぁぁー!」


すると、おばあがこくり、またこくり、と頷き、小さな左手をひらひらと蝶々のように振り返す。
あたしは止まらない涙を何度も腕でぐいっと拭いて、手を振り返した。


ずっと気がかりだったの。
本当だよ。
おばあに会いたかった。
ずっと、会いたかった。

だって、おばあはこの島でいちばん最初にできた友達だったから。
裏も表もない、絶対に噓をつかない、本音でぶつかり合える、同志だったんだもん。

大好きだから。
会いたかったの、ずーっと。