恋蛍~君の見ている風景~【恋蛍 side story】

3月の午後、青ガラスのような空が広がって、西の空からは濃厚なミルク色の入道雲が綿菓子のように湧き上がっている。

朝いちばんに新千歳空港を発ってからもう5時間弱。
現時刻は14時50分。

北海道の3月の空は今頃はもうゆっくり夕暮れの準備を始める頃なのに。

沖縄はこの時間でもまるで清々しい午前中みたい。

石垣島離島ターミナルを出港したフェリーのデッキにある白いベンチに腰掛け、陽射しにに目を細める。

「やっぱもう、こっちは夏だあ」

パステルブルー色のサロペットスカートの裾が海風に揺れハタハタと小気味いい音を立てる。

あたしは今、12年ぶりに東シナ海を行くフェリーに乗っている。

まるで、ガラスの粉をばらまいたように、途方もなく細かく、水面が煌めく。

行き先はもちろん、与那星島だ。

数ある離島の中でもひと際小さなその島は、神様が住んでいる。

昨年11月に記憶を戻した海斗と再会し、約4か月、北海道と沖縄で遠距離恋愛を経て、この春、あたしは結婚する。
その為にいま帰っているのだ。

年が明けてすぐ律子おばさんにトルテを退職し、結婚することを伝えた。
律子おばさんは韓国ドラマの最終話で号泣するかのようにおんおん泣いて喜んでくれた。

全ての業務を小春に引き継ぎ、堀北さんにも電話で報告した。
潤一にはしっかりときちんと報告したくて、お礼を言いたくて、お墓参りに行った。
「門出」という花言葉にふさわしい赤いスイートピーをお供えし、伝えられるだけのありったけのありがとうを、彼に届くように祈った。


汽笛が高らかに鳴り響いた。

あたしは顔を上げて港の入り江に目を細めた。

「あー、見えてきたぁ」

なつかしい小さな島が遠方にぽつんと浮かんでいるのが、見える。