恋蛍~君の見ている風景~【恋蛍 side story】

「うっ」


頬を突き刺すような冷たい北風に、反射的に肩がすくむ。

寒い。

視界を遮るほどに、あっという間にアスファルトを白い絨毯のように染めていくわた雪。

もう、あたりは暗い。

暗いのに、降り積もった雪が街灯の明かりを吸収して街を暖かな色に染めている。


大通りに出ると、やっぱりにぎやかな札幌の街。

特に今日はコンサートが行われているからか通行人は多いし、道路は車とバスとタクシーで軽く渋滞。

若い女の子たちがきゃらきゃらと楽しそうにはしゃぎながら歩いている。

はずなんだけれど。
そうなんだけれど……どうしてだろう。


今はやけに静かな札幌の街。

ああ、そうか。
この大粒のわた雪が、通行人の足音も声も、車やバスのエンジン音も、街中の音すべてを吸い込みながら降り積もっていく。
そして、街を白く白く、染めていく。


耳に入ってくるのは新雪の中、走り抜ける自分の足音と、そして、高鳴るこの心臓の音。


「へんなのっ」


あたしはぷはっと吹き出して笑ったくせに、頬を伝っているのは涙だったから。


真っ青な空に、真っ白なわたがしのような雲。

宝石のように煌めく透明な海の水面。

こぢんまりと建っている古い灯台。

海の神様が宿っているという1本のガジュマルの大木。

あたしは、あの夢みたいに美しい島で、泡沫の物語のような不思議な島で、恋に落ちたの。

そして、いまも。
何年経っても、ばかみたいに恋をしているの。

彼に。


会ったら、顔を見たら。あたしはちゃんと笑うことができるだろうか。
透明な心の彼に、あの頃のように真っすぐ、微笑むことができるだろうか。