恋蛍~君の見ている風景~【恋蛍 side story】

「……あ? ハリストスっつったら」

ほれ、そこの、と窓の外を指差しあたしに説明してくれようとした親方を宏子さんは「ああ、まず待って」と制し、「陽妃ちゃん」と便箋をぎっしりと握りしめるあたしの右手を、そっと両手で包み込んだ。

その細くてあたたかな手のぬくもりにふっと全身から力が抜けていくから不思議だ。

「ね、もし、陽妃ちゃんが許してくれんなら、私にもこれ、ちょっこし読ませてくんない?」

と、宏子さんは、相変わらず整った妖艶な形の目じりを下げて、何かを察したように微笑む。
ただでさえ勘の良い宏子さんだ。
あたしが軽くこくっとうなずいただけなのに、こう言うのだった。


「その、おばあのウシラシ? またまた的中したんだっしょ?」


なぁるほどねぇー、なんて。


宏子さんはあたしから便箋を受け取ると、さっそく読み始めた。
このひとはどこまで勘が良くて、要領がいいんだろう。
大事そうな箇所箇所だけを読むように手紙にざああっと目を通した。

そして、ものの5分そこそこで読み終え「ありがと」とあたしに便箋を返すな否や、カウンターの奥から真っ赤な分厚いマフラーを持って来た。

「コート着て、このマフラーは貸してやっから」


「えっ……でも」


「いいから。ハリストスはね、まずここを出て札幌ドーム方面に向かって一度大通りへ出るの。したら右に曲がって、1本目の路地に入って。すっと、閑静な住宅街に入るから、あとは真っすぐ行くと先に青いクーポルが見えてくっから」


10分かからないよ、そう言って宏子さんはあたしの顔が半分隠れてしまうほど、赤いマフラーをぐーるぐると巻き付けるものだから、つい小さく噴き出してしまった。


「あ、笑った」


わっはっはと、宏子さんはそれはもう楽しそうに笑う。
そんな宏子さんを横目に親方までげらげらと笑い出す。


「そったにぐるぐるに巻いたら、陽妃ちゃん前見えねえべって」


なーに言ってんのさ、と宏子さんはあっけらかんと言い返し、マフラーをもうひと巻きだけしたあと、襟足のところでぎゅうっとしばった。