窓の外は、わた雪。
人の都合はお構いなしに、札幌の街は刻一刻と夜の色に染められていく。
ソウルノートの店内も日暮れとともに時間をかけて雰囲気を変えていった。
親方がカクテル用のブロックアイスをアイスピックでコンコンと砕く音。
宏子さんがワイングラスを磨くときゅ、きゅ、とかわいい音が店内に小さく響いた。
「ひっ……ろこさ……あの、宏子さん!」
ひっそりとした時間が流れていた空気を破ったのは、
「宏子さん!」
すがりつく。まさにそんなあたしの切羽詰まったような声だった。
バーカウンターの中でワイングラスを磨いていた宏子さんが手を止め、はっと顔を上げる。
「え! ちょっとちょっと、どうした」
宏子さんはぎょっとした顔で、便箋をぎゅっと握りしめて立ちすくむあたしのところへ駆け寄ってきた。
わりとどんなことにも動じない宏子さんがぎょっとするくらいだ。
きっと今、あたしはひどい表情をしているに違いない。
「宏子さんあのっ」
あたしは、一歩後ずさりした宏子さんの腕を捕まえて、ぐいっと自分に手繰り寄せた。そして、大きな唾をごっくりと飲み込んでやっとの思いで口を開いた。
「ハリストス正教会って、どこですか……?」
それを訊くだけで、もう、精一杯だった。
本当にいろいろ、全部が精いっぱいだった。
唇がふるえ、指先が氷水に浸したあとのように冷たくなってカタカタと震える。
膝がかくかくと力が入らなくなっていくのを感じて、これが膝が笑っているってことかとは初めて気づいた。
宏子さんの腕にしがみ付くことでなんとか立つことができている、そんな情けない状態だった。
人の都合はお構いなしに、札幌の街は刻一刻と夜の色に染められていく。
ソウルノートの店内も日暮れとともに時間をかけて雰囲気を変えていった。
親方がカクテル用のブロックアイスをアイスピックでコンコンと砕く音。
宏子さんがワイングラスを磨くときゅ、きゅ、とかわいい音が店内に小さく響いた。
「ひっ……ろこさ……あの、宏子さん!」
ひっそりとした時間が流れていた空気を破ったのは、
「宏子さん!」
すがりつく。まさにそんなあたしの切羽詰まったような声だった。
バーカウンターの中でワイングラスを磨いていた宏子さんが手を止め、はっと顔を上げる。
「え! ちょっとちょっと、どうした」
宏子さんはぎょっとした顔で、便箋をぎゅっと握りしめて立ちすくむあたしのところへ駆け寄ってきた。
わりとどんなことにも動じない宏子さんがぎょっとするくらいだ。
きっと今、あたしはひどい表情をしているに違いない。
「宏子さんあのっ」
あたしは、一歩後ずさりした宏子さんの腕を捕まえて、ぐいっと自分に手繰り寄せた。そして、大きな唾をごっくりと飲み込んでやっとの思いで口を開いた。
「ハリストス正教会って、どこですか……?」
それを訊くだけで、もう、精一杯だった。
本当にいろいろ、全部が精いっぱいだった。
唇がふるえ、指先が氷水に浸したあとのように冷たくなってカタカタと震える。
膝がかくかくと力が入らなくなっていくのを感じて、これが膝が笑っているってことかとは初めて気づいた。
宏子さんの腕にしがみ付くことでなんとか立つことができている、そんな情けない状態だった。



