恋蛍~君の見ている風景~【恋蛍 side story】

「一緒に過ごしたのはたった数ヶ月で。笑っちゃうくらい短かったし。結局、あたしたちの恋に奇跡なんて起きなかったけど」


海斗。


「それでも、毎日が彼だったんです」


全部。


全部。


なにもかも、全部。


「彼は、あたしの、全てでした」


海斗。


ふう、と小さく息を吐き出して、同時に肩をすくめてうつむく。


「でした、でないんだべ?」


シゲさんに言われて、弾かれたように顔を上げる。


「え?」


「今でも全てなんだべ?」


「やっぱり、分かります?」


あたしがふふっと笑うと、シゲさんは得意げに腕を組んだ。


「分かるもなにも、ダダ漏れてるべ。気持ちが」


「……はい」










店の外は日没が迫り、うっすらと暗くなり始めた。


「ただいまあ!」


両手にエコバッグをぶら下げた親方がようやく戻って来たのは、16時を過ぎて間もなくのことだった。


「さぁっびー。急に冷え込んで来た。うー、さみぃさみぃ。もうこったら時間かあ」


聞くと、やっぱり渋滞に巻き込まれてしまっていたらしい。


「車、動かねえ動かねえ。連休の首都高じゃあるまいし。って行ったことねえけど。タマゴとかパスタ買いに行っただけなんだけど、なんまら疲れた」


親方は本当に疲れ果てた様子でカウンターの奥へのそのそと入って行き、


「ああ! んだっ!」


と急に振り返り、窓の外を指差してニッと笑った。


「見て、陽妃ちゃん。雪降って来たっけよ」