恋蛍~君の見ている風景~【恋蛍 side story】

「えっ、あの、あたしですか?」


周囲を見渡しつつ首を傾げると、シゲさんはきょとんとした目で頷いた。


「んだ。他に誰が居るか」


「あ、いえ……お嬢さんという歳でもないので」


「あんたはまだ独身か」


「……はい」


「して、恋人は」


やけにグイグイ来るなあなんて思いながら、返事をした。


「残念ながら」


「好いてる男は」


好いてる、か。


「そうですね」


あたしはフォークの背中を上にして皿に置き、苦笑いした。


「います」


「ほう」


シゲさんがそれはそれは興味深そうに瞳を輝かせる。


恋愛話が好きでロマンチストな80歳なのだ。


小説も恋愛小説しか読まないらしい。


「でも、もう、ずっとずっと片想いなんですけど」


ふむ、とシゲさんは顎を擦りながら言った。


「想いを伝えてみたらどうだべ」


「伝えたんです。一応。返事はもらえなかったですけど」


小さく笑ってうつむいた時、視界の片隅に水色の封筒が入ってきた。


でも、とっさに、反射的に視線をずらしてしまう。


まるで、現実から目を反らすように。


「返事。もう10年以上、ずっと……ずうっと、待ってるんですけどね」


「ほぉう。この美人をそんなに待たせてるのは一体どんな男だ」


と聞かれ、改めて考える。


どんな、か。


あたしの、好きなひと。