恋蛍~君の見ている風景~【恋蛍 side story】

「今朝と同じ番号」


明るく電話に出たあたしに返って来たのは、聞いたことのない遠慮がちな男性の声だった。


『あ、スドウハルヒさんですか?』


「……はい。そうですが」


急に声のトーンを落としたあたしを見て、堀北さんと小春が落胆したように同時に肩をすくめる。


『突然、申し訳ありません。板谷と言います』


「はあ……」


『あの……発信履歴にこちらの番号が残っていたので、もしかしたらと思いまして』


“板谷”と名乗ったその人は、潤一が居候していた日本人夫婦の旦那さんだった。


『潤一が言っていたものですから。日本を発つ前にプロポーズをしてきた恋人がいると』


「はあ」


『それで、もしかしてこの番号はスドウさんのではないかと思い、掛けてみたところでした』


「ああ、今朝、確かに電話がありました。潤一から」


『やっぱり。そうでしたか』


「はい。あの、それで、潤一は戻りましたか? アンコールワットを撮りに行くって言ってましたけど」


しん、と静まり返った部屋。


「潤一と話したいのですが、代わっていただけますか」


『……』


あまりにも不自然な間だった。