恋蛍~君の見ている風景~【恋蛍 side story】

きっかけは2、3杯のシャンパンと、美波ちゃんがアイドルオタク化していたという話題だった。


「いや、あのね。高校時代からの男友達にちょっとバカなやつがいてね」


初めは苦痛さえ感じてしまうほどぎこちなかった会話も弾み出し、あたしたちは10年という過ぎ去った空白を埋めるように夢中になって話した。


最後に1杯ずつシャンパンを飲んで店を出た時は22時近くだった。


「良かったです、陽妃さんと久し振りに会えて。楽しかったです。ほぼ美波ネタになっちゃったけど」


「あたしも、今日は楽しかった」


すっかり打ち解けたあたしたちは出たばかりの店の前で握手を交わした。


8月の蒸し暑い夜なのに、海斗の手はやっぱり氷水に浸した後のようにひんやりしていた。


懐かしくて、少し切なくて、あたしは小さく苦笑いした。


「どうかしましたか」


あたしを不自然そうに見て、海斗が首を傾げる。


「相変わらずひんやりしてる手だなあと思って」


「ああ、よく言われます。患者さんにも。冷え性っていうわけじゃないんだけど」


海斗の温度に触れて、改めて思い知らされる。


10年経ってしまった現実。


あの頃と同じ温度でも、もう、違う。