青と口笛に寄せられて



どうにかこうにか食事を終えた私は、お風呂の順番を待ちながらみんなでソファーに座って団らんしていた。
何気ない会話で笑い合う。
これがここの従業員の人たちの素敵なところだ。


前の職場では感じられなかった幸福感に浸っていると、ポロン、とピアノの音が聞こえた。


んん?と振り向くと、リビングの隅に置かれている少し大きめの電子ピアノを弾いている政さんの姿があった。


「え!政さん、ピアノ弾けるんですか!?」


ソファーから立ち上がってピアノのそばまで行くと、彼はニッコリ微笑んで首を横に振った。


「ごめん、弾けない」

「なんだぁ」

「俺じゃなくて啓なら弾けるよ」

「………………え!?」


ピアニスト・啓次郎!?
それは是非とも拝みたい……。


くるりと体の向きを変えて、くつろぎモードの啓さんを見つめる。
彼は顔面に「嫌」という文字をこれでもかというほど押し出していた。怖すぎる。
電子ピアノから離れた政さんが啓さんの背後に回り、あっけらかんとした表情で背中を叩く。


「アレ弾いてよ。久しぶりに聞きたい」

「アレって何だよ」

「お前がよく口笛吹いてるやつ」