青と口笛に寄せられて



そんなことを聞いてくるとは思ってもいなかったので、私は即座に「はい!」と元気よく答えた。


「超!超超超!楽しいです!犬と触れ合うのも、お客様と話すのも楽しいです!」

「あ、そう。それはなにより」


私のあまりの勢いの良さに押されつつも啓さんがゴーグルをつけていない目を細めたのが見えた。
口元はネックゲイターで見えないんだけど、たぶん笑っている。


最初の頃は犬にしか笑いかけていなかった彼は、最近ちょくちょく私にも笑ってくれるようになった。
それがちょっと嬉しかったりして。


「そもそも東京では何の仕事してたの?」


ふと思いついたであろう啓さんの質問に、私は何の気なしに答える。


「飲料メーカー会社の事務です。販売促進部の人たちにこき使われて、顧客様のクレーム対応して、飲み会でお偉いさんにお酌をして、お局様にチクチクイヤミを言われる毎日でした」

「はぁ。なんかよく分かんないけど人間関係が最悪だったんだな」

「今思えば合ってなかったんですよね、仕事内容が。啓さんの言う通り人間関係は最悪でしたし、上司も同期も気の合う人いなかったし、後輩には彼氏を取られるし……」

「取られたんだ」

「そうなんですよ!酷いと思いません!?ちょっと可愛くて胸が大きいからって、先輩の彼氏をたぶらかすなんて女ってほんとに……」


そこまで言いかけて、ハッと息をのむ。


あらららら。
私、今ものすごい独白をしてしまったんじゃないかしら。
気のせいよね?気のせいだと信じたい。
いやでも、オブラートに包み続けてきた恋愛話を暴露したような……。


これでもかと目をひんむいて啓さんを見つめると、彼はすでに体を折り曲げて大爆笑していた。