コーヒーを飲み終えて犬舎に戻ると、啓さんが訓練犬4頭を檻から出しているところだった。
訓練犬は実際にお客様を乗せることはまだしていない。
ここのスタッフのソリを引いたりすることはあっても、1人前の犬ゾリ犬としては条件を満たさないそうなのだ。
なので、彼らはお客様が帰った夕方以降に啓さんによってトレーニングを受ける。
私はこれまで訓練犬の練習をあまり見たことがない。
やり方は人それぞれだろうし、その日によってもトレーニングの内容が違う。
訓練犬のうち1頭が私を見つけて「ワン!」と元気よく吠えた。
シベリアンハスキーのカイだ。
同時に啓さんが私に気づいて顔を上げる。
「犬舎の片付けは終わったから、今日はもう大丈夫だわ」
「ちょっと見ててもいいですか?訓練犬のトレーニング」
私がそう言うと、彼は意外そうな顔をした。
「いいけど……。退屈だと思うよ」
「邪魔はしませんから」
少し離れたところから見るだけのつもりだったけれど、啓さんに2本のリードを渡された。
カイと、もう1頭のシベリアンハスキーのコウだ。
彼らのリードを握り、他の2頭を引いて歩いていく啓さんの背中を追う。
1台だけ外に出してあるソリに彼らを繋ぎ、走るコースまで連れていく。
その道すがら、啓さんが私に尋ねてきた。
「仕事は楽しいか?」



