やがて政さんは私たちがコーヒーを飲んでいるテーブルの空いている席に腰かけて、頬杖をついて軽やかな口調で語りかけてきた。
「俺はさ、サービス業はゼロ円スマイルと愛嬌とリップサービスが肝だと思ってんのよ。それがどうよ、啓のヤツ。あいつはいつまで経ってもあんなんしょ。客からクレーム来ない?」
私はそんなクレームを受けたことは無い。
助けを求めるように麗奈さんを見やると、彼女は肩をすくめて笑いながら答えた。
「確かに愛嬌とリップサービスは無いわね。でもゴーグルとゲイター取った時はちゃんと笑うようになったわよ。クレームも特に無いし。あの人機嫌悪いんですか、とかそういうことはごくたまに聞かれるけど」
「ん〜、じゃあ、あと1歩って所か。爽やかに笑って愛想振りまいてりゃモテんのになぁ。もったいないべさ」
「モテることだけ考えてる政とは違うんだわ、啓は」
「俺もカラコン入れよかな」
政さんがカラコンなんか入れようものならチャラさが増しちゃう、とほくそ笑んでいると。
ぬっと目の前に政さんの顔が現れて、驚いて仰け反った。
彼はニヤッと笑って歯を見せる。
「冬が終わったら時間も沢山あるだろうから、道内色んなとこ案内してあげっからな。お出かけすっぺ」
「あ……、ありがとうございます……」
「深雪ちゃん、お礼なんていらないわよ!嫌な時は断っていいからね!」
「お、おいおい〜。麗奈〜」
お礼を述べる私に、すかさず麗奈さんがアドバイスをくれる。
そしてそれを政さんが嘆く。
優しくほんわか和やかな雰囲気だったこの世界が、政さんの登場によってまた違うような、突き抜けるような明るさも加わった気がした。
彼はきっとムードメーカーだ。



