青と口笛に寄せられて



「なになに、俺の噂話?」


一体いつから後ろにいたのか、満面の笑みを浮かべた政さんが立っていた。
そして体をかがめて私と麗奈さんの肩を抱くようにして、とっても幸せそうにため息を漏らす。


「いやぁ、まさか新しい子がこんなに可愛いなんて〜。2人の美女に囲まれて、俺は幸せ者だべ」

「やめてよ、私には相手がいるんだから」

「そりゃ知ってるけどさぁ。つれないなぁ」


サクッと発した麗奈さんの言葉で、なんとなく私の心がギクリと軋む。
「相手がいる」って啓さんことだよね。


そんな私の気持ちなど誰ひとりとして知る由もない。麗奈さんが顔を覗き込んできた。


「深雪ちゃんだって東京に彼氏でもいるんじゃないの?ねぇ?」

「そ、それは……」


東京での虚しさ満載のあのエピソードを話そうか迷う。
今思えば勢いだけで双子料理人の聖子さんと好子さんには私の話をしたんだっけ。
「男はこれだから嫌になるわね〜」なんて感想を言われたんだった。


「えぇと。付き合ってた人とは最低最悪のシチュエーションで別れることになって。しばらく恋愛する気も起きなくて……」


詳しくは話さずとも、それなりに伝わるように話したつもりだ。
どこまで悟ったかは分からないけれど、麗奈さんは「あら」と目を見開いて、そして私の方に添えられている政さんの手をペシッと叩いて振り払った。


「はい、ということで。政は引っ込んでて」

「おいおい、麗奈は深雪ちゃんのSPかよ〜。俺ちょうど今フリーだよ?」

「超キケンじゃないの」

「健全しょ。逆に」


2人のポンポン弾む会話を聞きながら、仲の良さが分かるやり取りに思わず笑ってしまいそうになった。


「お2人は幼なじみですか?」


クスクス笑っている私に、政さんが笑顔でコクンとうなずいて見せる。


「まぁ、そんなところかな?啓と3人で昔よくつるんでたもんね」

「あの頃は2人とも可愛かったわ……」

「今もだろ!」


あー、ダメだ。
面白くて笑っちゃう。
ついでに言うならチビ啓さんの顔とか思い浮かべちゃって。
チビ啓さんとチビ政さんがケンカしているのを、チビ麗奈さんがたしなめる図が想像できる。
まぁ、その図式は今もそんなに変わらないか。