青と口笛に寄せられて



少し風はあるものの、天気は晴れ。
犬たちも元気いっぱいで問題は無い。


犬ゾリ体験のツアーは3月いっぱいで終了してしまうので、この仕事はあと1ヶ月。
それが終わったら、私は他にどんな仕事をすることになるんだろう。
なんにも考えずに働いてきただけあって、ふと思いついたことを頭の中で反芻する。


そういえば畑があったから、農作業?
馬や牛の家畜もいるから、そのお世話?
犬たちの散歩とか?


そうこうしているうちに、10時になって観光客がやって来た。
今日の予約は4組の計10名。
1組の家族連れが夫婦2人子供2人で、私は彼らを担当することになった。


子供は2人とも小学生だったので、犬ゾリは保護者の方と2人一組で滑ってもらえば問題無さそうだ。


チラリと横目で確認した啓さんの担当するお客様。
東京から来たというピッチピチ(死語かしら)の若い女の子2人組。
こういうお客様は珍しくない。
ただし、彼女たちは気づいてしまったようだ。啓さんの青い瞳に。


まだ犬ゾリの乗り方についてのレクチャー中だというのに、2人の女の子たちはきゃあきゃあ言いながら啓さんに群がった。


「ヤバッ!お兄さんの目!カラコン?」

「外人さん?ちょっとマスクと帽子取って〜!」

「申し訳ありません。そういうのは、のちほど」


啓さんは即座にゴーグルを下げて目を隠す。


正直言って、お客様にこういう反応をされることはとても多い。
私だって最初は興味本位で色々知りたくなったもんだ。
そして、その対応は啓さんも慣れっこだ。
大体、今のような感じで顔を隠して説明を続け、ロッジでお昼ご飯を食べる時に適当に「クォーターです」とか答えてたりする。


しかし。
今日は違った。
政さんがいるからだ。


彼は彼で自分のお客様に説明を終えたあとだったらしく、啓さんたちの間に割って入り、それはそれは明るい口調で


「もったいつけないで見せてやったらいいべ!な、啓!」


と無理やり啓さんのゴーグルとニット帽を引っぺがしてしまったのだ。