青と口笛に寄せられて



「君が新しい子かー!」と目を輝かせる彼にたじろいでいると、裕美さんが私に彼を紹介してくれた。


「彼は矢吹政信くん。啓くんや麗奈ちゃんと同じく地元出身で、冬の間は主にウィンタースポーツのインストラクターをしてるのよ。江田さんに合わせてくれて、今月からこっちに来てくれることになったから。仲良くしてあげてね」

「よろしくね」


ニッコリ微笑む政さん。
そんな彼に私も自分の名前くらいは、と慌てて自己紹介をした。


「初めまして。滝川深雪です!よろしくお願いします」

「深雪ちゃん!いい名前。それじゃあ、挨拶ってことで……」


おもむろに両手を広げる政さん。
2秒後には彼の腕の中にいて、ビックリしすぎてカチンコチンに固まる。
「こーら!」と裕美さんが無理やり剥がしてくれた。


「いい、政くん。若い女の子だからって出会ってすぐに抱きしめたりするのは失礼だわ。お客様にそんな態度取ったりしたらダメ!」

「分かってるべさ〜。仕事はちゃんと割り切ってっから!」

「もう!啓くんは口が悪いし、政くんはこれだもの。毎年のことながら先が思いやられるわ……」

「大丈夫、大丈夫!これで毎年どうにかなってるしょ?」


政さんの仕事ぶりはともかく、啓さんは裕美さんの心配には及ばない。
そばにいて仕事をしていて分かったけれど、体験ツアーに来ているお客様にはとても丁寧な応対をしているからだ。
あの口の悪さはどこへやら、って感じで、思いっきり北海道弁は出てくるけれど言葉遣いは直っている。


ボーッと彼らのやり取りを見ていたら、啓さんに肩を叩かれた。


「仕事に戻るべ。倉庫でソリの準備だ」

「はいっ」


返事をして啓さんについて行こうとしたら、後ろから政さんに「あとでね〜」とヒラヒラ手を振られた。
一応手を振り返していると、「早くしろ」と今度は啓さんに急かされる。


啓さんだの政さんだの、助さん格さんだの。こんがらがりそうになった。