高くついた防寒着やらなんやら一式。
旅費として持っていたお金では到底足りず、あえなくカード払い。
なかなか見ない金額に震えながら、名義人のところに名前をサインした。
「これでひと安心だな」
啓さんは大きな袋を抱える私を見て、ようやく満足そうな顔をした。
「明日からは遭難しても大丈夫、って言いたげですね……」
「うん、まぁ」
「そこは否定してくださいよ!」
プンスカ怒りながら先に駐車場を突っ切って、先ほどの白い車の前で啓さんを待つ。
遠隔操作で鍵を開けてくれたので、後部座席に買い物をした荷物を放り込んで助手席に体を滑らせる。
遅れて運転席に乗り込んだ啓さんが、不意に私の方を見た。
「深雪」
ん?
と思った時には、顔に何かの衝撃を感じて反射的に目を閉じた。
ドサッと手元に落ちる感覚。
ビックリして目を丸くして見下ろすと、今しがた出てきたばかりのお店の買い物袋。
中にはカーキ色のネックゲイターが入っていた。
「…………え……。これって……」
「今日1日、右も左も分からないのによく頑張りました。俺からのご褒美」
バッと勢いよく顔を上げると、犬にしか笑いかけないと思っていた啓さんが微笑んでいた。
青い瞳がよく見えた。
「これからよろしくな」
消え入りそうな声で「ありがとうございます」と伝えたのが、彼に聞こえたかどうかは定かではない。
名前で呼んでもらえたこととか、ネックゲイターをプレゼントされたこととか、笑ってくれたこととか、全部が混ざり合って私の中に溶け込んでいく。
どれがご褒美なの?って密かに思ってしまった。
こんな風にして、私の初日は終わったのだった。