青と口笛に寄せられて




「犬に出す指示は用語として決まってる。『ハイク』は『走れ』、『ジー』は『右に曲がれ』、『ハー』は『左に曲がれ』、『イージー』は『ゆっくり、速度を落とせ』、『ウオー』は『止まれ』。ね、簡単だべ?」


スラスラと啓さんはそう言って、もたもたメモを取る私の背中をバンと叩いてきた。


「これはメモよりやった方が早い。ほら、犬たちが指示待ってるぞ」

「え、ええええ……」


ぶっつけ本番みたいなものじゃないの!
スパルタだわ〜……。
浮遊感のあるドキドキから、緊張感のあるドキドキに変化した。


ソリと繋がった状態のローラとマイクは、ハッハッと白い息を吐きながらつぶらな瞳でこちらを見ている。
うぅ、可愛い。
君たちの顔と名前は一致したぞ!


「ハ、ハイク」


少し上ずった声で指示を出すと、犬たちがグッと動き出してゆっくりソリが滑る。
後ろから啓さんの声が飛んでくる。


「片足で地面蹴って、ペダリングして。走り出しは犬に負担がかかるから、加速するまで協力してやれ」


ペダリング!?
聞いてないぞ、その用語〜!!
でも言いたいことは分かったので、従って右足で地面を何度も蹴る。
途端に一気にソリが加速した。


「わぁ…………」


昨日みたいに、叫んだりできなかった。
ジェットコースターとは違う。
座って地面スレスレのところを移動するのと、立って操縦しているのとではスピード感が違うんだということをこの時初めて知った。
余裕を持って辺りを見渡せる。


「少し走ったら『ジー』か『ハー』で戻ってこい!」


少し遠くで啓さんの声が聞こえて、「はーい!」となるべく大きな声で返事をした。


犬たちの走る姿、雪を弾く様子、ソリの滑る音。
そして、何度見ても感動する雪景色。
流れゆく風景が、1秒ごとに変わっていくのがよく分かるし、体で感じる。


楽しい。めちゃくちゃ楽しい!
ニヤけちゃうくらい楽しくて、笑いが止まらない!
眩しい雪の反射を受けながら、夢中で犬ゾリを楽しんだ。


こんな楽しい体験を案内する立場に立てるなんて、私は世界一幸せ者だ。
私の選択は正しかった。


心からそう思った。