そんなに運動神経は良くない方。
体育の成績は常に『3』。真ん中。
そんな私でも犬ゾリのマッシャーになってもいい、って言うんだから、きっちり従わなくちゃね。
無言で教えられたとおりに右足に体重をかける。
少し体が斜めになって、それらしい体勢になっているんじゃないかと思う。
とにかく後ろにいる人との距離とか、そういうことは考えないことにした。
「今度は左に体重かけて。…………そうそう。やれば出来るじゃない。まぁ客でも乗れない人はほとんどいないから、あんたも大丈夫だべ。昨日みたいなコースは通らないし」
聞き捨てならない啓さんのその言葉に、私は即座に反応した。
「え!?昨日のジェットコースターのコース、あれは上級者向けってことですか!?」
あれほど後ろの人は気にしない、と決めたのに、1分もしないうちに振り返ってしまった。
ものすごく近い距離で目が合う。
少し驚いたような彼の見開いた目。
明るい空の下で見ると、青いはずの瞳が水色っぽく輝いていて。
見とれそうになる自分が今どんな状況なのかを一瞬にして理解して、「ぎゃあ!」と妙な悲鳴を上げて後ろによろめいた。
後ろには当然ながら啓さんがいるので、彼に向かって倒れ込んでしまい、ドンと胸で抱きとめられて慌てて謝る。
「ごめんなさい!すみません!」
「いや、別に……」
啓さんは顔をそらしてソリのソールから降りると、「実際に滑ってみっか」と話を戻した。
まだ胸がドキドキしている私はというと、頼むから常にゴーグルをつけていてほしい、という無茶な願いを心に抱きつつうなずく他なかった。



