青と口笛に寄せられて



昨日も連れてきてもらった、少し開けた場所。
そこで犬ゾリの乗り方をレクチャーしてもらうことになった。
雪が積もった木々に囲まれて、ザワザワとした音色をバックに大自然を感じずにはいられない景色。


マイナスイオンってこういうことかしら、と両手を広げていたら、啓さんが目にも止まらぬ速さでブライドルと犬のハーネスを繋ぎ、タグラインもしっかりと繋いだ。
ハーネスに緩みが無いか確認し、しゃがんでいた体を上げて私を手招きした。


「ハンドル持って、このスタンディングボードに立って」

「はいっ」


分厚い手袋越しに握るハンドル。
何度も握り直して感触を確かめた。


「基本姿勢はそれでいい。真っ直ぐ立つ。で、昨日分かったと思うけどカーブがポイントになる」

「体重移動ってことですか?」

「そうそう。遠心力かかるから踏ん張らないと吹っ飛ばされる。そうならないように右に曲がるなら右に体を少し倒す。左なら左に体を倒す。スキーの要領で考えりゃ分かるしょ」


ごく普通に話している啓さんに、私は「あの〜」とおそるおそる挙手した。


「私、生まれてから1度もスキーやボードをやったことがなくて……」

「………………あ、そう」


啓さんは少し片眉を上げたものの、私が東京生まれということを踏まえて尚且つウィンタースポーツに疎いということも全て悟ったらしい。
おもむろに私の背後に近づき、スタンディングボードの後ろのソール部分に足を乗せて体を寄せてきた。


ピタッとくっつく形になった私の背中と彼の胸。
息遣いまで聞こえてきて、ドッキーーーン!と心臓が強く鳴った。


「な、なな、な……」


何を急に!
と言おうとして口をパクパクさせていたら、耳元で啓さんの声がした。


「体重移動のやり方。右足に体重乗せて。左足はボードの上にそっと添える感じで」


あ……、はいはい。やり方ね。
そういう教え方ってわけですよね。
了解しました。分かりましたよ。
………………分かったから、このうるさい心臓どうにか収まってくれないかね!
なんなんだ、全く!